医師の働き方改革：残業の上限と睡眠の重要性

はじめに

近年、日本の医療現場では医師の働き方改革が進められています。この改革の目的は、医師の労働環境を改善し、医療の質を向上させることです。特に今年から施行された残業の上限規制は、医師の健康と患者へのサービスの質に大きな影響を与えると期待されています。この記事では、この働き方改革の内容について詳しく説明し、特に睡眠時間の確保がストレスや抑うつの軽減にどのように寄与するのかを考察します。

働き方改革の背景

日本の医療現場における過重労働は長年の課題でした。医師は、長時間の勤務や不規則な勤務が常態化しており、心身の健康を損なうリスクが高い状況です。これにより、医療ミスや職場の雰囲気の悪化が懸念されていました。そこで、政府は医師の働き方を見直し、労働環境を改善するための改革を進めることにしました。

ここなか

地方へ行けば行くほど医師不足が深刻で、その分一人の医者に対する負担はとても大きなものです。

残業の上限規制

2024年度から施行される残業の上限規制は、医師に対しても適用されることが決定されています。この規制により、医師の月間残業時間は原則として60時間までに制限されます。ただし、特別な事情がある場合には、最大で100時間までの残業が認められる場合もあります。

この残業上限の設定は、医師が過労によって健康を害することを防ぐための重要なステップです。長時間労働は心身の疲労を蓄積させ、最終的にはうつ病やストレス関連疾患を引き起こす可能性があります。実際に、厚生労働省の調査によれば、過労死や過労自殺の原因として長時間労働が大きな要因となっていることが示されています（厚生労働省, 2022）。

働き方改革の目玉「残業の上限」、違反すると罰則が課されるように
2019年から大企業では残業の上限が定められ、2020年からは中小企業でも始まりました。
決まったこと…残業は原則45時間・年365時間まで
（臨時の事情があり労使の合意が取れていれば年間の上限は720時間まで伸ばせることになった）
細かい条件…単月の残業は100時間未満、２〜６ヶ月の平均は80時間以内、かつ45時間を超えるのは6回まで
これを違反すると罰則（6ヶ月以上の懲役または30万以下の罰金）が課されるようになった。

すぐにすべての人が実現できるものではなかった
理想的には「働く人すべて」に上記の規制をかけるべきでした。しかしいくつかの業職種では準備期間が必要との理由から、
・職業ドライバー
・建設労働者
・医師
などは、5年間の猶予がありました。（今年の3月まで）
今年の4月からは、医師の残業は、医療機関の特性に応じて年960時間ないし1860時間という上限が設けられました。

勤務インターバル
それでも長い時間となります。医師の健康と能力の確保のために、
勤務と次の勤務との間に最低9時間の休息を設ける勤務間インターバルは重要で、やむお得ない事情で勤務インターバルを取れなかった場合は別途必ず休まなければなりません。

睡眠と健康の関係

医師の働き方改革において、残業時間の削減とともに重要なのが「睡眠時間の確保」です。睡眠は心身の健康に欠かせない要素であり、特に医師のようなストレスの多い職業では、十分な睡眠が不可欠です。
勤務時間は長くとも、「睡眠時間」が保たれると、ストレス状態や抑うつの上昇は低減できることがわかりました。

ここなか

健康と能力を確保するためには「睡眠時間の確保」が重要です。

ストレスと睡眠

研究によれば、睡眠不足はストレスを増大させる要因となります（Hirshkowitz et al., 2015）。睡眠が不足すると、脳の前頭前野が正常に機能しなくなり、判断力や注意力が低下します。これが医療ミスにつながることもあるため、医師にとって睡眠の質は特に重要です。

抑うつと睡眠

また、睡眠不足は抑うつ症状を悪化させることも知られています。アメリカ精神医学会の研究によれば、睡眠障害を抱える人は、そうでない人に比べて抑うつのリスクが高まることが示されています（American Psychiatric Association, 2013）。医師が十分な睡眠を取ることで、ストレスや抑うつのリスクを低減できる可能性があるのです。

働き方改革による効果

残業時間の上限が設定されることで、医師はより計画的に仕事を進めることができ、結果的に余暇時間を持つことが可能になります。これにより、趣味や家族との時間を持つことができ、メンタルヘルスの向上につながります。また、睡眠時間が確保されることで、医師自身の健康が改善され、患者へのサービスの質も向上することが期待されます。

さいごに

医師の働き方改革は、医療現場の過重労働を改善し、医師自身の健康を守るための重要な施策です。残業の上限規制によって、医師の睡眠時間が確保されることで、ストレスや抑うつの軽減が期待されます。これは、医療従事者の健康のみならず、患者にとっても質の高い医療サービスを提供するために不可欠です。

今後も、医師の働き方改革が進展し、医療現場がより良い環境になることを願っています。

参考文献

Hirshkowitz, M., Whiton, K., Albert, S. M., et al. (2015). National Sleep Foundation’s Sleep Time Duration Recommendations: Final Report. Sleep Health, 1(1), 40-43.
American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.). Arlington, VA: American Psychiatric Publishing.
厚生労働省. (2022). 労働時間の実態に関する調査結果.